他人に何かを壊された場合は基本的に弁償してもらえますが、基本的にはその物の時価額までしか補償されず新品にしてもらえるとは限りません。
なぜなら日本には民法709条という日常生活での「損害賠償」に関するルールを定めた法律があり、この条文を理解しておくことで、加害者や被害者になった場合の適切な対応方法が分かります。
民法709条とは?
民法709条では以下のように定められています:
「故意または過失により他人に損害を与えた場合、その損害を賠償しなければならない。」
これが意味するのは、「相手に損害を与える原因が故意(わざと)であっても、過失(不注意)であっても、加害者には賠償責任がある」ということです。
【具体例】
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車の運転中に事故を起こした場合
- Aさんが運転中にわき見をして前の車に追突。前方の車が破損し、運転手もケガを負った場合、Aさんは修理費や治療費を負担する必要があります。
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子どもの過失による損害
- Bさんの子どもが公園でボール遊び中に、隣接する駐車場の車にボールをぶつけて窓ガラスを破損。Bさんは保護者として損害賠償の責任を負います。
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飼い犬が通行人を噛んだ場合
- Cさんが散歩中にリードを持つ手を緩め、犬が通行人に噛みついてケガをさせた。この場合、Cさんは医療費や慰謝料を支払う義務があります。
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建物の管理不足による損害
- Dさんの自宅の屋根からの落雪が隣の家の庭にある物置を壊してしまった場合、Dさんには物置の修理費を負担する義務があります。
損害賠償の基本原則:「原状復帰」
損害賠償の目的は、被害者が損害を受ける前の状態に戻すこと(原状復帰)です。これは「新しい物を用意する」ということではありません。
【具体例】
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家電製品の破損
- 10年前に購入した冷蔵庫を誤って壊してしまった場合、その時点での価値(減価償却後の時価額)に基づいて賠償されます。新品価格ではありません。
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古い車の修理費
- 20年前の車に衝突して修理費が高額になったとしても、その車の時価額(中古市場の価値)を超える賠償は必要ありません。
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スマートフォンの破損
- 他人のスマホを落として画面を割ってしまった場合でも、時価額が基準です。高価な機種であっても、新品を買い直す費用は賠償の対象にはなりません。
賠償の範囲:補償されない費用
損害に直接関係しない付随的な費用は、賠償の対象外となることがあります。
【具体例】
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修理にかかる手間と交通費
- 被害者が修理のために何度も工場へ足を運ぶ場合、その交通費や手間は基本的に賠償されません。
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水漏れによる一時引っ越し費用
- アパートの水漏れで一時的にホテルや賃貸施設に滞在する場合、その際の移動・搬送費用などは賠償の範囲外となることがあります。
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精神的ストレスによる慰謝料
- 物損に伴う軽微なストレスについては、特に大きな被害がなければ慰謝料の対象になりにくいです。
特殊なケース
【過失割合が絡む場合】
交通事故などでは被害者にも一部過失がある場合があります。この場合、損害賠償額は過失割合に応じて減額されます。
- 例:Aさん(加害者)が60%、Bさん(被害者)が40%の過失割合の場合、Bさんが請求できる金額は総額の60%に減額されます。
【不可抗力や第三者の過失】
自然災害や第三者の行為が原因となった場合、加害者に責任がないケースもあります。
- 例:強風で隣家の木が倒れ車が破損したり、屋根や看板が落下して近隣に被害が及んだ際は所有者の管理義務は問われますが、10年に1度クラスの台風などの場合は弁償しなくてもいい場合があります。
まとめ
民法709条による損害賠償の基本ルールを理解することで、トラブル発生時に適切に対応できるようになります。
- 損害賠償の基本は「原状復帰」。新品交換は不要で、時価額が基準。
- 付随的な費用や精神的負担は補償されない場合がある。
- 過失割合や不可抗力による例外も考慮される。
これらの原則により保険会社で加入している「賠償責任保険」は、法律上の賠償限度額までしか補償されません。保険に入っているから何でも補償してもらえるとは限りませんので、事故が起きた際は保険を過信しないで慎重な対応が必要です。
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