2007年4月から損害保険会社では段階的に契約時の確認を強化している。
これは、火災保険の料金を取り過ぎていた契約が存在していることが発覚したことがそもそもの発端であるが、この「契約確認」はお客さんにとってどう理解されているのだろうか。
もちろん私も代理店業務をしているのでお客さんとの契約時には、
「この部分は○○ですが御希望通りでしょうか?」
というように一つ一つの質問を確認してチェックした上で契約手続きをしている。(ちなみに契約確認は全ての契約に必要ではなく不要な商品もあります)
しかし、代理店の私が言うのもおかしな話だが、火災保険と言うのは本当に難しい商品である。
いや商品自体はそんなに難しいわけではないのだが、一番難しいのが「物件の評価」と「支払金額の計算」であろう。
と言うわけで今回は火災保険における「物件の評価」についてお話します。
私が保険の仕事を始めた時、最も苦労したのが「火災保険」である。
先ほども言ったように「商品」はさほど難しくは無い。
「火災・落雷・破裂・爆発・風水害」などを支払う『住宅火災・普通火災』と
上記の他に「飛来・落下・衝突・水濡れ・盗難・水害」などを支払う『住宅総合・店舗総合』
当時はこの違いが解れば充分だった。
しかし本当に難しいのは
「どのくらいの金額を掛ければいいのか?」
という『評価』の問題だ。
基本的に火災保険の補償金額はお客さんが決められるものではない。
もちろん建てたばかりの建物ならその建築価格で掛ければいいのだが、何年も経ってくるとそのままの金額では問題も生じてくる。
どんなものでも何年も経てば劣化してくるためその物の評価額は下がる。
当然、火災保険の金額も毎年下げる…というのが理想だか、それは現実的ではない。
手間が掛かるということもあるが、実は建物の火災保険のほとんどは『長期契約』になっていることに原因がある。
建物を建てる時は金融機関からお金を借りて建てることが多いために、金融機関は万が一燃えてしまっては大変だということで、火災保険にも抵当権を付ける。
それを「質権」と呼ぶが、その質権が付く契約のほとんどは25年とか35年分の保険代を一括で支払う「長期一括払い契約」になるため何十年も同じ評価額で保険を掛けていることになる。
これは明らかに矛盾してますよね。
このような契約がそもそも「火災保険料の取り過ぎ」と言われる契約に多いのです。
それで私は昔、保険会社に火災保険の契約方法について提案をしました。
この「長期契約の保険金額(評価額)を毎年減っていく逓減方式の契約に出来ないのか?」と。
しかしいろんな問題からこの契約方法はいまだに商品化されていません。
恐らく物価の変動などを考慮しきれないからなのでしょう。
でもお客さんにしてみれば納得いきませんよね。
金融機関に言われるまま火災保険に入ったら実は超過保険(実際の評価額より大きい金額で保険を掛ける)になっているなんて…
もちろん全ての契約が超過保険になっているわけではないです。
最近は評価額を「再調達価格」と言って今新たに建て直したらいくら掛かるのか?
という設定で契約(新価方式)することが増えているのでこのような問題は少ないと思われます。
ただ昔はそんな契約なんか一般的ではなかったし、長期契約で新価方式が使えるようになったのも最近の話ですから、保険代の取り過ぎになりやすいのは事実です。
実際に私のお客さんの長期契約を途中で減額した例もあります。
さて、「再調達価格」とか「新価方式」という面倒な言葉があるとないでは火災等に遭い保険金をもらう時に大きな違いとなります。
どういうことかと言うと、基本的に火災保険の支払いは「比例てん補」が採用されるからです
おっと!また訳のわからない言葉が出てきましたね。
「比例てん補」とは…の前に「再調達価格」や「新価方式」についておさらいしておきますね。
ちなみに再調達価格とか新価方式と反対の言葉は「時価方式」になります。
何となく解ってきましたか?
「時価」というのは、ある物の現在の価値を表しますよね。
ではその逆の「新価」というは、簡単に言うと新品での価格と考えていいでしょう。
そこで火災保険では燃えてしまった建物を新たに建て直すとしたらいくら掛かるのか?という金額を「再調達価格」という面倒な言葉に置き換えているわけです。
では、もしあなたの家が燃えてしまったら時価評価での金額をもらうのと、新価評価での金額をもらうのとどちらがいいですか?
当然「新価評価」の方が良いに決まってますよね。
新品価格なんだからその方が多くもらえますからね。
その新価評価で火災保険に入ることが出来るんです、知ってました?
これ以上話すと面倒なことになるのでこの辺にしておきますが、その新価評価(正式には価格協定保険特約・新価用という)で保険に入っておけば、火事にあっても限度額の範囲内で自分の納得した保険金がもらえると思っていいでしょう。
よく昔は「燃えても柱1本残ればほとんど保険金はもらえない」
と言われていたそうですが、
この新価(再調達価格)方式で入っていればそんな心配は要りません。
(っていうかその「柱1本」ということ自体が勘違いなのですが…)
だってちょっとしたぼやでも業者が修理するための金額がほぼもらえるんですから、柱1本残っていたとしてもその柱が使えれば使った場合の修理代を出すし
その柱が使えないと判断すれば元から建て直す金額を出すでしょう。
まぁ柱1本だけ残った状態で、誰もその柱が使えるとは思えませんので新たに建て直す金額を出すことになるでしょう。
ただし、限度額(保険金額)を一定金額に留めておく契約も可能なので、必ず修理代を全額出してもらえるとは限りませんからね。
えっ?
「限度額?」「一定金額?」
またまた話を混乱させてしまいましたね。
そもそも新価方式の再調達価格で火災保険に入るということは、
「あなたの家を全く同じように建てるなら、今現在このくらい掛かります」
という金額で保険を掛けるということです。
だからあなたの家が30坪で、今なら一坪45万円掛かるとすれば1350万円の保険を掛けなければならない…ということです。
と言うと皆さんは「そんなに掛けなくてもいいよ」と言いたくありませんか?
「じゃあその8割分でいいよ」
ということで1080万円で掛けることが出来るのです。
すると、「あなたの家を建て直すなら1350万円するのですが、とりあえず1080万円を限度とした火災保険に入っておきますか」という契約も可能なのです。
もちろん商品によっては、6割とか5割という契約も出来るかもしれません。
燃えたときにしっかり払ってもらうためには新価方式がいいが、満額は払えないから限度額を設定しておく…という方法ですね。
あっ?
肝心な保険金の支払方法を話してなかったですね。
これなら新価方式の必要性が薄いですね。
さてここからが火災保険の胆というか、最も分り難い部分です。
最初にそんな風に書いてしまうと読みたくなくなってしまうかもしれませんが、
これを知っているだけであなたは一気に「火災保険ツウ」になっちゃいますよ。
これまでの話で火災保険には色んな掛け方があることを解説してきました。
今ある家を新しく建て直すためにかかる金額の「再調達価格(新価方式)」と今ある家がどのくらいの価値があるかという金額の「時価方式」がある。
そして新価と時価の違いを簡単に言うとこうなる。
新価方式で火災保険を掛けておけば、災害に遭った時でも元通りにするための金額がほぼ支払われる。
時価方式で火災保険を掛けておくと、災害に遭った時には元通りにするための金額から減価償却分を差し引かれる。
という違いが出てきます。
「減価償却分」とはその家が建ってからある程度の年数が経つと、建物自体が劣化してきてその分価値が失われているからその分はお支払いできません、という意味です。
これは車の車両保険と似たような考えです。
車の車両保険の限度額は毎年下がってきますよね!これはその車にはそれだけの価値しかなくなっているから、事故に遭った時点での価値の分までしか支払われませんよね。
火災保険も基本的には同じ考えです。
ただ、時価方式で火災保険に入っている場合は、車の保険と違って実際に掛かる修理金額から減価償却分を差し引くので修理に掛かる金額までは支払われません。
ということは、時価方式の場合はもらった保険金だけで元通りに直すのは難しいのです。
さらに注意しなければならないのが、時価方式で火災保険に入る時はその時点での時価相当額にしておかないと保険で支払われる金額が更に減ってしまう恐れがあることです。
このシリーズの冒頭で「火災保険の補償金額はお客さんが決められるものではない」と書きました。
「でもうちでは補償して欲しい金額しか掛けてませんけど…」
という方もいるかもしれません。
まぁそれがたまたま適正な金額の範囲であるケースは多いです。
では、実例で考えましょう。
例えば20年前に1500万円で建てた家があったとします。
今現在建て直す場合の建築価格は1650万円で時価額(保険価額)は1155万円(1650万×70%)とします。
あなたならこの家にいくら位火災保険を掛けたいですか?
「1500万」ですか?
「1000万」ですか?
「 500万」ですか?
では実際に火事に遭った場合、火災保険(時価方式)ではいくら支払われるのか計算してみましょう。
寝タバコが原因で寝室全部と外壁の一部が被害に遭い元通りに戻すための修理金額が300万円掛かるとしましょう。減額される減価償却費は30%とします。(都合上端数は切り捨てます)
1500万円の火災保険に入っている場合は、時価額1155万×80%<補償額1500万なので、
損害保険金 300万×70%=210万円
臨時費用 210万×30%=63万で
273万円が火災保険金として支払われます。
1000万円の火災保険に入っている場合は、時価額1155万×80%<補償額1000万なので、
損害保険金 300万×70%=210万円
臨時費用 210万×30%=63万円で
同じく273万円が火災保険金として支払われます。
500万円の火災保険に入っている場合は、時価額1155万×80%>補償額500万なので、
比例てん補〔500万/(1155万×80%)〕が適用されます。
損害保険金 300万×70%=210万円
比例てん補 210万×54%=113万円
臨時費用 113万×30%=33万で
146万円が火災保険金として支払われます。
1500万円と1000万円の場合は修理金額に近い金額が支払われますが、500万円の保険に入っている場合は修理金額の半分以下しかもらえない計算になります。
したがって、
1500万円 → 超過保険(多過ぎ)
1000万円 → ほぼ適正金額
500万円 → 一部保険(少な過ぎ)
「まぁ掛けてる金額が違うんだからもらえる金額も違うか…」と思うかもしれませんが、「500万円の保険に入ってて、300万円の被害なんだから全部出るんじゃないの?」と思う人もいますよね。
では500万円の保険の時に出てくる「比例てん補」とは何でしょうか。
これは火災保険の補償額が一定額(時価額の80%)に満たない場合は実際に支払われる保険金をその割合に応じて減額するというものなんです。
「なんで比例てん補なんてものが存在するのか?」
「自分の掛けたい金額を掛ければいいんじゃないの?」
と言われると「そういう決まりだから」としか言いようがないのですが。
これは私の個人的な想像ですが、恐らく同じような物件なのに掛ける金額が違うのは不公平になるということではないかと思います。
例えば、2軒全く同じ家があったとします。
Aさんは1000万円の保険を掛けて、Bさんは500万円の保険を掛けています。
その2軒とも同じような火事に遭った時、AさんもBさんも同じだけの保険金をもらったらAさんは不公平だと思いませんか?
ただ多少の違いならしょうがないということで時価額の80%を基準にしているのでしょう。
いずれにしても、せっかく火災保険に入っていても、上記のように「減価償却」や「比例てん補」が適用されて思っていたよりもらえる金額が減ってしまってはたまりませんよね。
だから皆さんも火災保険に入る時は、
「時価方式」ではなく「新価方式」
「一部保険」ではなく「適正金額」として火災保険に入るようにしましょう!
その辺は保険の代理店をやっている人は詳しいはずなので、きちんと聞いて納得した上で契約するのが一番ですよね。
◇補足
尚、最近発売されている家庭用の火災保険は無条件に新価方式(再調達価格)で契約できる商品が多いです。しかし、従来からある火災保険では価格協定特約を付けるか付けないか選択できるタイプになっておりますので、時価方式の場合は上記の比例てん補が適用され実際にかかる修理代まで支払われない恐れがあります。
とはいえ、新しい商品は料金が高い場合が多く、価格協定特約を付けるには一定の条件がありますので、今加入している火災保険も含めてお客様自身がしっかりと確認する必要があるでしょう。
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